PROJECT 73 Blog

自称FBIの装備に詳しい人のLEリエナクター向けブログ

【解説】FBIの特殊部隊 Part.2

※ 内容は公的情報や画像資料等を参考にしていますが、全てが正しいとは限りません。参考程度にご覧頂ければ幸いです。



【FBI HRT (Hostage Rescue Team)】

HRTは人質救出部隊の略で、陸軍特殊部隊デルタを参考に対テロ専門の特殊部隊として1983年に新たに創設されました。


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(四つ目ことBNVSやサプレッサー等も使用している)



『Servare Vitas (命を救うために)』をモットーに、SWATよりも困難な特殊作戦などの任務にあたります。
壊れた鎖を運ぶ鷲が描かれた部隊章は、鎖が人質を意味し、HRTが人質事件の連鎖を断ち、人々の命を救うというモチーフです。



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(Servare Vitasの書かれたHRTパッチ)



元からあったSWATの職種の一種という訳でなく、同じFBIの特殊部隊でも、SWATとは役割も技術も指揮系統も完全に異なる『全く別の部隊』となっています。

同じ機関に2つの特殊部隊が存在すること自体、米国内の他の法執行機関では見られず、文字通りの “特殊部隊” と言えるでしょう。


創設にはデルタだけでなくDEVGRU(旧チーム6)等の米国トップレベルの特殊部隊も関わっており、これらの部隊とは共同トレーニングはもちろん、9.11後に米軍が中東へ展開していた頃は軍事作戦にも加わっていました。

このようなことからも他の警察系特殊部隊とは一線を画する存在であり、少なくとも米国内で『2番手』と言えるような部隊とも大差をつけて高い技術を持つ、最も優れた法執行機関特殊部隊です。



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公式に挙げられている主な任務は以下の通り。


・船、航空機および大型車両の強襲
・テロリストの作戦や攻撃を素早く鎮静化する
・犯罪者や逃亡者の追跡及び逮捕
・密かに建物に侵入し、人質を救出する
・海外や各種イベントでFBIや米国政府を保護する
・ヘリコプターからのラペリングによる突入


人質救出部隊という部隊名ですが、実際のところ人質救助だけが仕事ではありません。必要とあれば、危険を「基から断つ」ため国外での作戦にも従事します。
(アフガニスタンイラクでの活動以降、国外での任務は過剰とする意見から、近年は国内事案が基本)


とはいえ、やはり最大にして最強のHRTだからこそできる技術は他でもなく『人質救出』にあります。

FBI SWATをはじめ、各地地元警察のSWATの戦術は、防弾盾等を使用し、時間をかける周到な突入を中心とします。こうした戦術は危険度の高い活動には有効ですが、人名が危機にさらされている場合には十分でない場合があります。

もちろん人質救出の技術を身につけようと訓練するLE特殊部隊もいますが、実際にはその大多数でとうてい無理な業務と認識されており、これはSWATらの技術が低いのではなく、それほどに人質救出が困難を極める技術なのです。


そして、彼らはあくまで兵士でなく法執行官です。銃を手に人質をとった悪人が待ち構える部屋に突入を行う際、フラッシュバンを投げ、突入したあと、それでもその容疑者を撃たないという判断が瞬時に下せる能力も求められるです。



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このような高度な技術が求められるだけあって、その選抜課程は米国屈指の苦痛のフルコース体験として有名です。

応募は男女問わず3年以上現場経験があり、業績も優秀なFBI捜査官なら誰でも可能で、純粋に能力で選考されます。
2006年以降は戦術採用プログラム(TRP)により、現職捜査官でなくても軍または法執行機関での戦術実績があれば応募できるようになりました。(TRPでHRT選抜に合格した場合、その資格取得は2年後になる)


試験は年に一度2週間かけて行われており、悪名高い米海軍SEALsの選抜課程BUD/Sに比べればずいぶん短期間ですが、そのぶん凝縮されており、初日の朝食前には多数の脱落者が出るほどと言われています。


過酷な選抜を突破し、2割に満たない生き残りの一人になれたとしても、さらにセレクションがあり、本当に一握りしかHRTに入る資格は与えられません。

また、HRT資格を取得後もNOTSと呼ばれる1年に及ぶ新戦闘員訓練があり、ここでも高水準の得点を取り続けなければ追い出されてしまいます。NOTSが終わるまでは先輩隊員らにも認めてもらうこともできず、HRTになるというのは一般的な警察特殊部隊になることとは一線を画するのです。



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過酷な試験を突破したHRT隊員は、各地方局ごとに部隊が分散しているSWATとは違い、HRTは重大事件対応群(CIRG)の指揮下にあり、普段はバージニア州クワンティコにあるFBI屈指の大規模訓練施設で約100名ほどが在籍しています。
その代わり、出動要請があれば米国全土4時間以内に展開できるよう常に有事に備えています。
(休暇中にも “1時間後に集合” など、急に呼び出されることもある)


また、パートタイム制のSWATと違い、連邦法執行機関としては唯一のフルタイム制になっており、基本的な実働部隊である3つのチームで運用/訓練/支援を60日ごとにローテーションしています。
加えて実働チームをサポートする専門技能を持つチームもあります。



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それぞれのチームは動物をモチーフにしたチーム章を身に着けており、コールサインも各チームの頭文字からとっています。



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Gold:シュモクザメ
Blue:羽
Red:ヒヒ
TMT:歯車とサイ (Tactical Mobility Team)
K9:犬の牙と爪
THU:部隊章とほぼ同柄 (Tactical Helicopter Unit)


過去の国外派遣時には「FB」や「C」といったコールサインも使われていました。
FBについては陸軍特殊部隊との区別のためにFBIの頭2文字をとったもの、Cはチャリーチームを表していると考えられますが、使用されていたのはアフガンのみです。

このほか「BD」といったコールサイン等も一部確認されていますが、基本は上の画像の通りです。


このほか、HRTは創設に携わったデルタとの関わりに注目されがちですが、創設初期の隊員はDEVGRU等の特殊部隊から引き抜かれたメンバーで構成されていたため、パッチのデザインや形状はデルタよりもDEVGRUの影響を強く受けています。



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各チームの話に戻すと、Gold/Blue/Redはローテーションの実働部隊で、Goldはその中でもマリタイム(海事任務)技術が他のチームより強化されたHRTの最精鋭チームです。能力ある隊員はGoldチームへ異動することもあります。



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訓練中の事故により亡くなったSteve Shaw氏もGoldチームの隊員でしたが、元々はBlueチームにいました。



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また、各チームはその中でさらに複数の班(正確な数は不明ですが、アルファやブラボーといったフォネティックコード呼称)に分かれており、襲撃班と狙撃班で構成されています。


Blueチームは2015年のNY脱獄事件のマンハントに出動したことで知られています。Goldはシュモクザメのモチーフが使われ、海事任務も得意としていましたが、この特性とモチーフ自体に今のところ関連性見られないため、羽のモチーフだからといって航空任務に特化しているという訳ではないようです。
(UH-60Mヘリコプターも各チーム一基ずつ配備されている)



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Redは今のところ国内で目立った出動はありませんが、実働チームの1つです。特に海外派遣の多いチームで、その派遣は部隊単位ではなく、狙撃や偵察、EOD、交渉等の技術支援要員として個人単位で特殊作戦部隊に加わっているようです。

当初のHRTはGoldとBlueの2チーム編成でしたが、隊員の増加やチームの負担軽減等の様々な理由から2000年以降に追加されたと考えられます。



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公式の情報や文献の資料もほぼ0ですが、基本的にはBlue同様の扱いと思います。



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Redチームは襲撃班よりも狙撃班の資料のほうが目立っています。(これは単なる偶然)
左の画像にある雷と斧をクロスさせた意匠はスナイパーを示すものです。またパッチの形状からRedチームであることがわかります。
続いて右の画像では同じ形状にRedチームのモチーフであるヒヒの頭蓋骨が描かれていますが、よく見ると裏には薄く左と同様の意匠があり、画像が狙撃班のものであるのがわかります。

憶測の域を出ませんが、偶然にしては狙撃班の資料があまりに多いので、もしかすると狙撃技術が多少なりとも強化されたチームなのかもしれません。


2000年以前はHRTの存在やとりわけスナイパーは重要とされていませんでしたが、CIRGの設立やFBI内部の大幅な改革に貢献したフリー長官はそう考えておらず、重要な役割のひとつとして狙撃手の増員を行いました。
その後9.11やアフガン派遣を経験したHRTで、新チーム増設にあたり狙撃技術を重視したチームができても不思議ではありません。

とはいえパッチから考えられる憶測に過ぎないので今後の情報に期待です。

ちなみにRedが狙撃特化かはさておき、各チームの狙撃班や後述の特技チームのメンバーは、前提として襲撃班同様のスキルを持つため、その専門性が必要ない場面では襲撃班同様に行動します。
なので、狙撃手だからといって常にスナイパーライフルを携行する訳ではありません。



続いて、実働チームをサポートするのがTMT/K9/THUといった、より専門的な技術を持つチームです。
これらの隊員は実働部隊員より専門的な技術を持ちますが、もちろん一人のHRT隊員として実働チーム同様のスキルがあります。


Tactical Mobility TeamはHRTが所有する様々な乗り物を使って実働チームをサポートし、各種SUVポラリスMRZR4バギー等の車輌だけでなく、ボートやヘリも乗りこなす操縦のプロです。乗り物にちなんだサイと歯車のモチーフです。
(Mobilityとだけ呼ばれることもあります)

現場到着後は襲撃班と一緒に行動するため、戦闘チームの1つとしても運用されています。



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また、地方局SWATにはない特殊車輌等も持っていることから、TMTは実働チームだけでなくSWATもサポートします。



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上画像はワシントン支局のMedic(SWAT)の訓練、サンファン支局SWATのハリケーン災害支援をサポートした際の画像です。


K9チームは、SWATのK9チーム同様に警察犬とそのハンドラーたちで構成されており、十数名の実働チーム隊員に対して一人か二人程度が同行します。



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SWATのK9はMedic同様にRG装備の簡素な装備を使用していることが多く、現場での戦闘への参加をあまり想定していないようですが、HRTのK9は他の隊員同様にフル装備で行動し、一人の戦闘員としてみなされているのがわかります。



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Tactical Helicopter Unitは名前通りのヘリコプター専門チームです。
TMT隊員にもヘリコプターを操縦できる隊員がいますが、こちらは更に高度な操縦技術を持つとされています。


このようにHRTはあらゆる技術を文字通りの最高水準でいつでも提供できるよう、今この瞬間も備えているのです。



《FBI HRT Fact》
HRTはSWATと比べると圧倒的クローズな存在で、事件への出動はおろか訓練の様子さえメディアにはめったに出てきません。


出動までの流れを、FBI SWATも交えて非常にざっくりと説明すると

地元警察→地元SWAT→地方局FBI SWAT→HRT

といった感じです。実際のところ大事件にしても地元警察で対処できないレベルは滅多になく、ましてやFBI SWATでも対処しきれないとなると相当の事態です。


近年の出動は2015年のNY脱獄事件に加え、その前年のボストンマラソン爆弾テロ事件が有名ですが、いずれも「人を殺した人間が住宅街に逃げて行方がわからなくなる」という事案で、広範囲をしらみ潰しに捜索する必要があるだけでなく、いつ人質をとられてもおかしくない状況です。

確かにこのような状況では、出せるだけの人員が全て必要ですし、更なる死者を増やし兼ねず、容疑者を見つけるまで事態は終息しません。

要するに、これだけの危険な状況になるまで通常の事件出動はしない部隊なのです。


装備については、昔はHRTもSWATと同じくRGの装備等を使用していた時期ありましたが、伝統的には迷彩服を着ることがほとんどで、2013年までには改めてマルチカムの装備に完全に更新されており、そのマルチカム装備のほうが今は有名かと思います。



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(2010年頃まではこのような装備だった)



現在のHRTの装備はデルタの影響を強く受けており、かなり陸軍特殊部隊的な装備となっています。



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装備調達もSWATとは完全に別であり、SWATの装備は『支給』制であるのに対して、HRTには専属の補給係がいるため『欲しい』と思ったものは大抵は調達でき、要望に沿ってオリジナルのナイロンギアを作ってもらうことも可能です。

このほか自分たち専用のブラックホークや大量の様々な銃を購入したりしています。
(ちなみにブラックホークは現在3機所有しており、満足に個人装備も整えられない法執行機関も多いなか、ヘリコプターまで所有しているような部隊はBORTAC等の本当にごく僅かな部隊のみです)



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(訓練中に様々な火器を試験できる班もある)



もちろん現代の特殊部隊同士ですし、SWATと使用例が被る装備もありますが、基本的にそれらは『偶然の一致』にすぎないということです。

ライフルのバレル長も違えば、M4カスタムもTROYならAlpha (SWAT)とTRX (HRT)、ヘルメットならSentry (SWAT)とAirframe (HRT)、「SWATが〇〇だからHRTも〇〇じゃないの?」といった考えも根本的に間違っています。


ちなみに海外フォーラム等でやたらHRTと関連づけられているガイズリーMk4 FEDハンドガードは、そのように話題になりだした時点では使用例はまだ皆無で、SWATでしか使われていませんでした。実際に本格的な使用例が出たのは2020年からです。

そのためMk4 FEDを使って “HRT Custom” として投稿されている個人のカスタム例は、実際ほとんどがSWATのカスタムです。



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(Geissele Mk4 Federal)



いずれにしても、今はようやく使用例が出てきたわけなので、きちんとカスタムすればエアガンで現行のHRTライフルを組むこと自体はできると思います。

このほか2017年以降、SWATもマルチカム装備が主流になってきているので、「HRTだ!」と話題になる画像のSWATでしたパターンも増えています。
技術は別として、装備は素人目での区別が難しいくらいに、SWATがHRTの装備に追いついてきているとも言えます。




このようにFBIには2つの特殊部隊があり、それぞれに違いや魅力があります。FBIの特殊部隊に興味がある方は今後の記事にもご期待下さい!

ご覧頂きありがとうございました。